ADD日の出町
リサーチ&ワークショップの記録

中西レモン+武藤大祐

リサーチ

東京都西部の多摩地区に位置する日の出町は豊かな自然が広がる。ADDのアドバイザー・佐藤美紀の、同町在住の親戚から伝手をたどり、様々な踊りに関わる方々とお会いすることができた。

日の出町は郷土芸能が多く残る土地柄で、「日の出町郷土芸能保存会」の会合でご挨拶させて頂き、折々の行事や稽古を見学した。

国指定重要無形民俗文化財「鳳凰の舞」は、例年9月に春日神社の例大祭で奉納されている。子供たちが歌舞伎風の台詞を次々に披露する「奴の舞」と、大人たちが太鼓の周りをぐるぐると舞う「鳳凰の舞」からなる独特の芸能だ。

近年「ひらい祭り」と称し、この春日神社の例大祭に旧平井村地域の5つの囃子連が一堂に会して五人囃子(笛・太鼓・鉦)と踊りの競演を行っている。囃子連はそれぞれ特色があり、「志茂町囃子」は、地域の強い結びつきの中で、明治期以来の囃子の忠実な継承と見せ方の工夫に努めている。比較的新しい「桜木囃子」は地区を問わず新規の移住者も積極的に受け入れている。

郷土芸能に関わる子供たちが多い一方で、更に別のダンスに接する機会もある。ADD日の出町の実施拠点である町立の「志茂町児童館」ではクラブ活動としてフラダンス教室を設けている。またヒップホップを習っている子供にもしばしば出くわす。日の出町にはMUSKYというダンス教室がある他、町の青少年委員会でも小学生対象の「ヒップホップダンス教室」を主催していて、7月にはその成果発表を兼ねた「Letʼs ! ダンス・ダンス」というイベントが町内のイオンモールで開催されている。ここにはMUSKYや、近隣の市町村の高校ダンス部などもエントリーしており、毎年盛り上がりを見せている。

古くからの郷土芸能が多く残る日の出町は、ヒップホップ・カルチャーの一つのハブにもなっている。

「鳳凰の舞」は町内各所を巡行した後、春日神社へ。秋の訪れを告げる風物詩

イオンモール日の出のロビーは、子供たちがダンスを披露する「広場」の役割を担う

ワークショップ

ADDを日の出町で展開するにあたっては、「志茂町児童館」のスタッフである小峰知緒理さんがまず興味を示してくださり、町の子育て福祉課で児童館担当の小森公夫さんには何かれとなく支えて頂いた。

児童館には、放課後の子供たちが集い、前庭でボール遊びをしたり、図書室で本を読んだり、遊戯室で卓球をしている。リサーチャーの中西レモンはたびたび顔を出しては一緒に遊んで(遊ばれて)いる内に、街中でも子供たちから「レモン!」と呼びかけられる存在になっていた。

ADDのワークショップ「ほうかごダンス教室」は児童館内の遊戯室をメインに、建物の2階(志茂町会館)の座敷、さらには町立の「やまびこホール」でも実施した。

ADD日の出町のワークショップは、初回に菅原小春さんの登場で勢いよくスタートした。音楽に合わせてドンドンと踊る菅原さんに導かれ、子供たちのテンションも一気に高まる。形ではなく「音楽と一つになる」ことが強調され、決まり事に捉われず自分の感覚で自由に動くことを子供たちは新鮮に味わっていた。

「一人で踊ってみたい人?」という菅原さんの呼びかけに応じて、最年少5歳の女の子がやまびこホールの広い空間でたった一人踊ってみせるという場面もあった。
児童館でフラを教えているロケラニ和子さんには、基本のステップや、手で様々な形や風景を表現する動きを教えて頂いた。ロケラニ和子さんは地元のハワイアン・バンド「ブルー・パラダイス」とも活動を共にしており、日の出町のハワイアンシーンの一端も垣間見られた。

鳳凰の舞保存会の皆さんは、通常は男子のみの「奴の舞」を今回特別に女子にも教えて頂いた。ワークショップ参加者で保存会にも参加している子にはお手本に立ってもらい、扇や棒を使いながら大股で一歩ずつ前進する動きを全員で揃えた。玉の内獅子舞保存会の皆さんの回では、腹部に括りつけた太鼓を叩きながら舞うため、練習用の太鼓を中西レモンが製作した。道具を持つことで、子供たちは一段と練習に夢中になっていた。桜木囃子保存会の皆さんは、普段から初心者の子供たちに教えておられることもあり、明快でスピーディーな説明が印象的。子供たちは短時間で「ひょっとこ」の踊りを一通り覚えてしまった。

志茂町囃子保存会の皆さんは本格的な囃子の演奏付きで教えてくださった他、ワークショップに参加していた兄弟が、保存会の一員として教える側に回った。本人たちにも、また彼らから習う子供たちにとっても、新鮮な体験になったようだ。

MUSKYダンススタジオからはFUUMINさんによるストリートダンスの基礎を。バレエを教えておられる長谷川和子さんには基礎の姿勢や歩き方を教えて頂いた。体験してみて、バレエを習ってみたいと話してくれる子も出て来た。

ADDのアドバイザー・佐藤美紀によるコンテンポラリーダンスの回では、動きの型が決まっていない、自分たちで動きを作っていく体験をしてもらった。リサーチャーの中西レモンも、ゲストのにゃんとこさんとともに、古い盆踊りを振り帳から復元してみる作業を子供たちと楽しんだ。総じて子供たちの関心は高く、連続して参加する子供たちの割合が大きかった印象である。

ロケラニ和子さんにフラの基本を習う。ゆったりした動きと、ジェスチャーによる意味表現

「玉の内獅子舞」は太鼓を叩きながら動く。忙しい反面、リズムの手がかりになる

古い芸態の忠実な継承に取り組む志茂町囃子。保存会の子供たちは教える側に回った

開始と同時に、子供たちの緊張を一瞬で解いてしまう菅原小春さん。音楽に乗って、気分を盛り上げ、全身で大きくダイナミックに動く楽しさへと導いていく

ワークショップ後に子供たちにとったアンケート

再始動:創作ワークショップ

日の出町ではすべてのワークショップが終わり、ダンスの創作に参加するメンバーがちょうど確定した頃、コロナ禍により中断。

1年3か月もの休止期間を経て、オンラインで再開した(様々な事情で継続できないメンバーも出てしまったが、沖縄に移住した子がオンラインのおかげで参加することができた)。計15人の子供たちが自分たちで振付を考える作業に挑戦した。

都内のスタジオと各家庭をZOOMでつなぎ、菅原小春さん、アシスタントの髙中梨生さん、そして中西レモンの3人によるワークショップは 3日間。まずワークショップで習った踊りを思い出す作業を軽く行った後、自分で考えた動き( ADDで覚えた動きや、日常生活の中の動き)のモチーフを3つずつ持ち寄ってもらい、これを素材としてオリジナルのダンスを作ることにした。

子供たちと久しぶりの再会。15か月の間にみんな大きく成長していた

動きの素材を大胆にアレンジする菅原小春さん、巧みに音楽と組み合わせる髙中梨生さん

発表会

子供たちから出てきたモチーフを、髙中さんが中心となってダンスのフレーズへと整理し、菅原さんとともに音楽に合うようつないでいった。音楽は、日の出町で録音した志茂町囃子、鳳凰の舞、ブルー・パラダイスの演奏を、ミュージシャンの齋藤真文さんがリミックスしてつないだオリジナル音源である。

記録映像を使った復習の甲斐もあって、フラや鳳凰の舞の動きも少し入った、約5分間の振付が完成。ZOOMの画面越しではあるが、全員で最初から最後まで通して踊ることができた。

個性豊かな子供たちが集まり、爆発的な盛り上がりに。いつか舞台で踊りたい作品が生まれた