ADD日の出町鼎談

「子供たちにとっての文化の地平」

菅原小春

派遣舞踊家

中西レモン

リサーチャー/振付アシスタント

髙中梨生

菅原小春アシスタント

―― プロジェクトを終えて感想は?

菅原小春:楽しかったです。子供好きだし。というか、自分はどっちかといったら子供の側なんですけど。ダンスってすごくて、みんなダンスを踊ると色んな境界線がなくなる。国籍でも性別でも年齢でも。そういうことは子供が一番わかってますね。こっちが気付かされることが多かったです。そんなことあるのか! とビックリさせられて、私もまだまだオトナだな、なんて思ったり。

髙中梨生:子供たちから出てくる発想が自分には発見になりました。自分たちはやっぱり音に合わせて、リズムがどうとか考えちゃいますけど。動きを考える時に「観覧車!」とか言われて、「観覧車?」って、インスピレーションは色んな所にあるんだと教わりましたね。

菅原:今度から振付は子供と一緒にやった方がいいかもね。一番ワクワクする感じになるから。もしいつか自分がスタジオやるとしたら、子供が大人に教えるクラスも作りたい。

中西レモン:私はリサーチャーとして日の出町にお邪魔して、歩き回りながらだんだん地域文化を知っていくのが楽しいなと思いました。こういう企画はどうしても、ちょっと押しつけがましい感じになりやすいんですが、結果的に、地域の文化を担ってきた色々な方のご協力を得られたのはありがたかったですね。今回のような作業が継続できたら面白いことになるんじゃないかな。伝統芸能の存続が危ういのはどこも同じなんですけど、自分の体で体験してみる面白さがあるかないかでもかなり違うと思います。今回は伝統芸能の継承の「実験」みたいな面もあったように思うんです。企画の中で自分は「つなぎ」の役というのか、小春さんとのつながり、次世代とのつながり、そういう役割ができたらいいなと思いながら楽しませてもらいました。

菅原:私も「よさこい」とか踊ることがあるけど、そういうのもダンスも、結局は同じです。踊ることは魂を「捧げる」ことだと思うから。何か一つに「捧げる」っていうこと。境界線は全くない。

中西:ADDでは、小春さんのダンスと、身振りで伝えられた伝統文化を同列に取り上げることができました。言葉で語るんじゃなくて、実際に体を動かしながら直接体験することで、子供たちにとっての文化の地平が広がったと思います。それぞれの時間の流れの中で出来てきたカッコよさというものがあるわけで。

―― ここしばらくダンスのブームが続いていますが。

菅原:みんな上手に人の関係の中に入って、携帯で動画を撮ったり、どうしてもダンスが表面だけになっちゃう傾向ってありますよね。でもダンスはそこで嘘をつけない。ワークショップでも、表面的になっちゃっている人をほどくのはすごく大変です。2時間じゃ絶対足りないし、疲れる。いやパワーはいつもあり余ってるんですけど。もしこれがマイケル・ジャクソンのオーディションだとしたら、そんな気持ちか? と。常に本番、今日は今日しかないから。緊張してると音も入って来ないし、スポンジの状態にならないから、それをワーッってやって、まずほどくんです。

中西:ADDでも小春さんの最初の回は、もう入ってきた途端に音を流してとにかくリズムで体を動かして、子供たちを渦の中に巻き込んでいく感じでしたね。

菅原:そうなんですよ。大人はどうしても概念が先に来るけど、これは良くてこれはダメってことはないんです、ホントは。「ダメ」じゃなくて、ユーモアを加えればいいのに、大人のユーモア不足ですよね。それで子供が概念に凝り固まって緊張しちゃう。だから、せっかく踊りに来るのにコノヤローって思って、そうやって渦に巻き込んでほどいていくんです。

中西:アーティストには「常識」のおかしさを暴いていっちゃうような性格もあるということを改めて思いますね。行動とかパフォーマンスで解体しちゃう。別の回では、子供たちに学校でどんなことをやっているか問いかけて、日常の動きを出してもらって、歩き続けながらその動きをやる。そういうところからでも振付は生まれるんだよ、って。踊りが形作られていく上での一つの「核」みたいな部分を子供たちにポーンって出していくのが面白かった。

菅原:表現なんて結局、やろうと思ったらいつでもどこでもできるんですよね。駐車場だって家だってステージになるし。イマジネーションでどこまででも行ける。

―― 小春さんが「一人で踊ってみたい人?」と呼びかけたら、一番小さい子が手をあげて、広い体育館で一人で踊ったのは、みんな驚きましたね。

菅原:ああやって凝り固まらずに、一人で踊る、一人で立てる人はすごいです。大事なことだと思う。毎日まっさらで生きてたら、つねに新しいことをして、楽しいことに向かっていってたら、もっと世の中ハッピーなんです。心を裸にするのはみんな怖いですよね。裸の心で喋ることはできない。でもダンスだったら、できるんですよ。

一番小さい子が手をあげ、音楽に乗って立派にソロを踊ってみせた