ADD国立市
リサーチ&ワークショップの記録

木村玲奈+武藤大祐

リサーチ

国立市は大学などもある文教地区で、独自のコミュニティ活動を展開している個人や団体も多い。ADD国立市の実施拠点となった「くにたち市民芸術小ホール」では、バレエ・ジャズダンスの練習や発表会のほかに、主催事業としてコンテンポラリーダンスのワークショップも行われている。

リサーチを進める中で、小中学生のダンスチーム「LOCK★SHOW」と出会うことができ、さっそく市立国立第六小学校での練習を見学させて頂いた。もとはこの小学校のクラブ活動として始まったもので、佐藤華先生(現在は別の学校の教員)がダンス未経験の子供たちを指導しているが、現場ではむしろ子供たち主導で稽古を進めているのが印象的だった。

谷保天満宮では、砂連尾理さんが9月の例大祭にて古式獅子舞を見ることができた。三匹獅子舞は関東地方に多いが、これは平安時代にまで遡る古い形だという。禰宜の津戸弘樹さんのご紹介で、この獅子舞に興味を持って毎年見に来るというトリニダード・トバゴ出身のモリース・モランスィさんにも出会うことができた。モリースさんはALT(外国語指導助手)として府中の高校に勤務しているそうで、トリニダード・トバゴの踊りを子供たちに教えてもらえないか尋ねてみたところ、都内で働く同郷の友人と一緒なら、と引き受けてくださった。

一橋大学は、競技ダンス部なども有名だが、先生方にもユニークな存在が多いようだ。「芸術小ホール」でダンスのワークショップに参加されたことがある社会学部の鈴木直文先生は、ラクロスの元スコットランド代表という珍しい経歴の持ち主で、スポーツと社会包摂が研究テーマ。非常勤講師の長谷川智先生は現役の山伏で、大学では古武術等について教えているという。どちらもいわゆる「ダンス」とは違うが、ラクロスは元をたどると北米先住民の宗教的な儀礼であり、修験道も神楽などの芸能と結びつきが深いので、ワークショップをお願いした。

国立市では、さまざまな教育関係者とダンスの接点があることが見えてきた。

農作業を楽しみたい人が集まる「くにたちはたけんぼ」。様々なイベントも開催している

本をテーマにしたコミュニティ・スペース「国立本店」で、会員の皆さんにお話を聞く

ワークショップ

ADD国立市の実施拠点「くにたち市民芸術小ホール」では音楽・演劇・落語・ダンスなどの様々な催しを行っている他、音楽練習室やスタジオ、アトリエなどもあって、市民に親しまれている。1階のロビーは開放されていて、放課後は子供たちが勉強やゲームをしに集まってくる。児童館ではないが、子供たちの居場所として機能しているようだ。

ワークショップ「ほうかごダンス隊」は、おもにホールの地下にある音楽練習室で行ったが、必要に応じて、隣接する「くにたち市民総合体育館」をお借りすることもあった。小ホールの斉藤かおりさんには、企画に賛同して頂き、会場の手配を助けて頂いただけでなく、地域に密着した文化施設の特色を生かして、ADDを国立市の皆さんとつないで頂いた。「ほうかごダンス隊」は事前の申込みで早々に定員となり、毎回続けて参加してくれる子供たちが多かった(ただしコロナ禍による中断が長引いたため、再募集となり、顔ぶれはかなり入れ替わった)。また様々な障害のある子が、ごく自然に、全体の中にとけ込めている様子も非常に印象的だった。

国立市では砂連尾理さんによる、ちょっと変わったダンスのワークショップから始まった。互いの目を見て挨拶をするようなワークや、全員一列に密着してウェーブを作る「ワカメ」のダンスなど、特定のジャンルのダンスを学ぶというより体を使ったコミュニケーションの可能性を子供たちに体験してもらった。また当時、ADD国立市の制作担当である村松薫さんはお腹に赤ちゃんがいたので、砂連尾さんは「お腹の中の赤ちゃんに向けて踊ってみよう」と課題を出し、みんなでダンスを考えて踊ってみるという場面もあった。リサーチャーの木村玲奈も、自身の故郷である青森の伝統的な踊りを教えた。

ラクロスの鈴木直文さんには、ラケット操作の基本を教えて頂いたほか、ラクロスというスポーツの文化的な背景を映像とともに解説して頂いた。さらに砂連尾さんのアイデアで、ラクロスの動きに音楽や「動物のまね」など異質な要素を組み合わせてみるという課題にも子供たちは挑戦した。

「LOCK★SHOW」の佐藤華さんは、まずカスタネットを使って、リズムをつかまえるウォーミングアップを行い、その後ヒップホップがベースになった振付をみんなで習った。最初は恥ずかしがっていた子も、徐々に楽しくジャンプし始める。音楽・リズムが持つ、人を踊らせる力がひしひしと感じられた。

トリニダード・トバゴ出身のモリース・モランスィさんには、同郷のズィア・ホールダーさんと一緒に、同地の民俗舞踊である「ベレ」を教えて頂いた。「トリニダード・トバゴってどこ?」と聞いても子供たちはわからなかったが、「カリブの海賊」のあの「カリブ海」の国だと知って目を丸くしていた。ベレでは、女性はフレアスカート、男性は布を持って、それぞれ異なるステップで踊る。子供たちも風呂敷をそれぞれ受け取って、まずは男女にわかれて練習。最後に音楽と合わせて短い振付を踊った。講師のお二人も、自国の踊りを日本で教える珍しい経験を楽しんでくれていた。

砂連尾理さんのワークショップでは、特定のジャンルの踊りを教えるのではなく、体を使ったコミュニケーションを様々に楽しむ。遊ぶことを通して学ぶ

小学校の先生でもある佐藤華さんから、リズムに乗って動くダンスの楽しさを教わる

ベレには男性と女性それぞれの踊りの他に、みんなで踊る輪踊りもある

ラクロスのラケットの使い方を探る。「ゲーム」と「ダンス」の境目が薄れていく

ワークショップ後に子供たちにとったアンケート

再始動:創作ワークショップ

国立市では8回目のワークショップを終えた頃にコロナ禍で中断し、1年3か月の後、オンラインと現地開催を組み合わせて再始動。

4回のプログラムを実施した。集まった6人の子供たちに踊りを教えて頂いたのは、前回に引き続き佐藤華さん(ヒップホップ)、そして新たに大竹美奈子さん(盆踊り)、カレフア吉田さん(フラ)、久保田正美さん(身体表現)。さらにモリースさんに教わったベレを砂連尾さんが教えた。

各回の冒頭では講師の皆さんによる実演に加え、踊りの歴史背景なども紹介して、文化としての側面にも興味を持ってもらった。

ワークショップは毎回、前半で踊りの基本を教わり、後半ではコロナ禍の状況をふまえた講師の皆さんから子供たちへのメッセージ(「いいふうに考えればいいんじゃない」「あきらめないでいこう」など)から子供たちがオリジナルの振付を考える、という構成。砂連尾さんやスタッフのサポートを受けながら、子供たちが考えた振付も全員でしっかりと練習した。

遠隔だが、家族と一緒にリラックスして楽しんでくれる子供たちが多かった

普段はコンテンポラリーダンスの大人たちもフラに挑戦。吉田さん親子によるレッスン

発表会

くにたち市民芸術小ホールのメイン施設である「ホール」を会場に、保護者や関係者を招いて実施。子供たちが、盆踊り、ベレ、フラ、そして自分たちのオリジナル振付を、講師の皆さんや砂連尾さんとともに踊った。ゲストの片岡祐介さんによる即興演奏(ピアノ、打楽器)、さらに地元から安藤容子さん(サックス)も参加して、子供たちのパフォーマンスを楽しく盛り上げた。

そして最後に、客席後方から久保田さんが登場。型のない踊り、あるいは得体の知れない動きや佇まいに子供たちは自由奔放なリアクションで応じ、不思議な盛り上がりを見せて閉幕となった。

習った踊り、自分たちで考えた踊りを次々こなしつつ、ハプニングも多発して楽しい舞台になった