ADD港区
リサーチ&ワークショップの記録

福留麻里+ストウミキコ+武藤大祐

リサーチ

各国の大使館が集まり、外国人も多く、まるで東京の中に「世界」があるような港区。ADD港区の拠点「麻布子ども中高生プラザ」のある麻布を中心に歩きながら、色々な方のご協力を頂いたり、縁が繋がっていくことで、さまざまなダンスを見つけることができた。

まずは情報収集のため、区民センターや図書館へ。色々なダンス教室の案内や、いくつかの面白いチラシが目に留まった。

「港区ワールドフェスティバル」は、大使館をめぐるイベント。大使館では、各国に伝わるダンスの話を聞くことができた。東京タワーでは世界中の伝統舞踊が見られるイベントもあり、とくにウズベキスタンやアフガニスタンのカラフルな民俗舞踊が印象深い。戦争のイメージが強い中東地域だが、人々の生活に根差した文化の豊かさにふれることができた。

港区では盆踊りが盛り上がっているというのも意外だった。「港区発掘ご当地曲盆踊り大会」というチラシを見つけ芝公園に出かけると、大勢の人が集まって「芝浦音頭」「東京五輪音頭2020」などを立て続けに踊っていた。「人と地域を元気にする盆踊り実行委員会」代表の北島由記子さんに教えて頂き、後日、練習会にも足を運ぶと、お年寄りから会社員の方、中学生まで50~60名ほどの方が、2時間半ほぼぶっ通しで踊りまくっていた。

国際色豊かであると同時に、日本の伝統文化も生き生きと受け継がれる港区の多面性が、「踊り」を通して浮かび上がってきた。

一つのビルに大使館がいくつも

「港区発掘ご当地曲盆踊り大会」。司会進行は日英バイリンガル

岡啓輔さんが自力で建てた鉄筋コンクリートの「蟻鱒鳶ル」

ワークショップ

ADD港区の拠点は「麻布子ども中高生プラザ」。幅広い年齢層、多様な国籍の子供たちが放課後に集まり、賑やかだ。遊びやスポーツ、ゲームの施設がある他、イベント、クラブ活動も充実している。そうした中にADDのワークショップ「ほうかごダンス×ダンスremix」を加えて頂き、実施した。事前に申し込みしてくれた子だけでなく、「何やってるの〜?」と通りすがりに興味を持ち、参加する子も多かった。

プラザのスタッフ渡邉千里さんは、「子どもたちの『やってみたい』という気持ち」が何より大切、それを引き出すには「楽しそうに魅せる大人の存在がとても重要」と、自身も楽しみながら関わってくださった。

港区には実に様々なダンスに関わっている方がいて、ワークショップも多彩な内容になった。

地域に根差した盆踊り文化を盛り上げている北島由記子さんには色々な盆踊りを楽しく教えて頂いたほか、手話活動を幅広く行い、ダンスも取り入れている小島泉さんをご紹介頂いた。手の形で意味を伝える手話は、日本舞踊にも通じるところがある。

フラメンコの正木清香さんには、カホン奏者の平島聡さんとともに、基本の12拍子のステップを教えて頂いた。最初は戸惑っていた子供たちが、延々と繰り返す内に自然と動きが揃い、フラメンコならではの勢いのある動きになっていくのはやはりダンスの不思議なところだ。

岩井隆浩さんにはポッピング(ストリートダンスの一つ)の基本で、筋肉を弾くようにして動きを突然止める技を教えて頂いた。空中で物をつかむイメージを持つのがコツ。覚えると子供たちはすぐにそれを使って遊べる(踊れる)ようになった。

白波瀬さんに教えて頂いたカポエイラは、踊りと格闘技が混ざったブラジルの伝統文化。基本技を習得後、ビリンバウという打弦楽器のリズムに乗り、一対一で動きの掛け合いを行う「ホーダ」に挑戦。

アフガニスタン大使館のアシュラフ・バブリさんは、最初は「自分は踊りが得意なわけじゃない」と仰っていたが、当日はパリッとした伝統衣装で、盆踊りに似た民俗舞踊「アタン」を教えてくださった。上村菜々子さん率いるアフガニスタン舞踊グループ「シャランシャラン」にも踊りを見せて頂いた。子供たちには華やかな衣装が大人気、終了後は写真撮影の列ができた。

バレエ経験のあるお母さん三人組「Uni mama」の皆さんには「からだワーク」を、またリサーチャーの福留麻里も「遊び」の延長線上で動いていくなど、いわゆる「ダンス」になる手前の部分も子供たちに味わってもらった。

そして日本舞踊は尾上流家元・尾上菊之丞さん。足袋を履き、挨拶の仕方や扇子の扱い方などの作法から踊りへの心構えを学んだ。菊之丞さんの折り目正しく繊細な立ち居振る舞いは、子供たちにダイレクトに響いていた。日本舞踊は所作で意味を表し、それを組み合わせて物語を演じる。扇子で「雪が降る」「風が吹く」といった様子を表現するのを楽しみながら、日本の伝統文化と美意識を体験してもらった。

また今回、上述した方々の他に、新型コロナウイルスの影響でワークショップの実施は叶わなかったが、沖縄出身で琉球舞踊を教えていらっしゃる濱田ひろみさん、三田でセルフビルドの建築「蟻鱒鳶ル(アリマストンビル)」を建てながら、舞踏家でもある岡啓輔さん、プラザに通う小学生のお父さんであり、ブレイクダンサーでもある川上直人さんなど、ダンスを通じて個性豊かな地域の先輩に出会うことができた。

港区は盆踊り好きのコミュニティがとても活発。子供たちへの稽古もパワフル

カポエイラの基本ステップ「ジンガ」を習う。体を目いっぱい大きく使い、リズムに乗る

アフガニスタンでは結婚式などで人々が楽しむ輪踊り「アタン」。どんどん加速していく

日本舞踊は演劇的な要素も強いので、他の踊りとの違いが際立つ。尾上菊之丞さんから直々に教えを受ける子供たち

ワークショップ後に子供たちにとったアンケート

再始動:創作ワークショップ

港区では7回目のワークショップの後、コロナ禍により中断を余儀なくされ、1年4か月の休止期間を経て再始動。4日間の短期プログラムを組み、参加する子供たちを募集した。集まった6人の内、4人は初めての参加だった。

福留麻里からバトンタッチしたストウミキコがファシリテーターとなり、子供たちは白波瀬さん(カポエイラ)、正木さん(フラメンコ)、小島さん(手話)、ファン・レイさん(中国古典舞踊)、そして菊之丞さんからそれぞれ初歩を習った。初登場のファン・レイさんには、リズムを軸とする他の踊りとは対照的に、呼吸を意識しながら流れるように動く踊りを教えて頂いた。さらに菊之丞さんの発案で「鳥獣戯画」を発表会の全体モチーフに据えることになり、それぞれの踊りの中から動物を模した動きも覚えた(フラメンコは牛、カポエイラは猿と蛙、中国舞踊は鳥、日本舞踊は兎と狸)。

各回の冒頭では講師の皆さんによる実演に加え、踊りの歴史背景なども紹介して、文化としての側面にも興味を持ってもらった。

小さい頃から国立舞踊団で寮生活をしていたレイさんが子供たちに踊りを教える

手話を体験する。日本舞踊と似ている...と菊之丞さんも興味津々

発表会

プラザ内の体育館(アリーナ)に舞台と客席を設営し、保護者や関係者を観客に招いて、子供たちが習った踊りを一つずつ講師とともに披露。冒頭では手話で「みなとく ちょうじゅうぎが」とタイトルを表した。

「鳥獣戯画」にちなんで墨画風の色に染めた揃いの衣装をつけ、照明の当たる舞台に立った子供たちは、カホンやギター、太鼓などの生演奏をバックに、程よい緊張感のもと集中したパフォーマンスを見せた。後半はゲーム形式で、習った動きをランダムに選んで踊ったのち、フィナーレでは子供たちオリジナルの動物の動きで円舞、客席を大いに沸かせた。

大人も子供も一緒になって、それぞれが未知の領域に飛び込み、楽しむ